医療用スクラブは白がいいのか?黒がいいのか?

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私は獣医師として仕事にスクラブは欠かせませんでした。主に緑や紺など安定した色を使っていましたが、周りにはピンクや水色の明るいカラーを着ている人もいましたし、灰色や黒を着る人もいました。でも、スクラブってどうしてこんなにカラーバリエーションがあるのでしょうか?医療従事者は本来白を着るべきものではないのか?黒は何だか縁起が悪くないか?今回は経験談を交えて、様々なスクラブ事情に迫って行きたいと思います!

医療現場で使用するスクラブを販売店で購入するメリットとデメリット

スクラブで印象に違いはあるのか?

実際に効果を実感したことはありません。飼い主さんからスクラブの色について尋ねられたことはありませんし、わんちゃん、ねこちゃんも色というよりスクラブに染み付いた匂いを嗅いで不安そうにしていました。飼い主さんにとっては医療従事者の行動や発言が何よりも気になってしまうようです。

でも色は医療現場において補助的なものというだけで、全く効果がないとは思えません。

傍目で見てもダークな色のスクラブを着ている先生はかっこいいですし、明るいスクラブを着ている先生は優しそうに見えます。実際にスクラブのカラーバリエーションが増えているのは、色彩心理を取り入れる意味もあるようです。

暖色は温かみがあり、パステルカラーは爽やかな感じがします。寒色は知的なイメージがあるので、私も好んで着ていました。病院によってはカラーを統一する場合もありますので、医療従事者からの色の効果に対する期待は高いのでしょう。

黒いスクラブのいいところ

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医療現場ということで、やはり血に触れる機会はよくあります。口から血をだらだら流している子の唾液がスクラブについてしまうこともしばしば。ふとした拍子に自分が血まみれになっていることに気がつき、「あ!」と驚いてしまうこともあります。

また、わんちゃん、ねこちゃんは診察中にもうんちやおしっこをしますので、それがスクラブに染み込んでしまうことも。処置を終わらせたら急いで着替えにいったりもしました。汚れた服装で飼い主さんの前には立てませんし、わんちゃん、ねこちゃんの感染源になることもありますからね。

しかも診療が終わってから洗濯するので、汚れは乾燥してこびりついてしまいます。スクラブは買い直すと高いので、私は汚れたスクラブを必死にこすって漂白していました……古いスクラブはどうしても色残りしますが、今のスクラブはちゃんとこすればだいたいの汚れはギリギリ目立たないかなと思えるくらいまでには落ちますが、完璧には無理でした。

なので黒いスクラブは汚れが目立たないので使い回しやすいのが大きな利点です。ちなみに、スクラブは英語でscrubと綴り、意味は「ゴシゴシ洗う」です。


白いスクラブのいいところ

獣医師として動物を扱っているからこそのあるあるとして、動物の毛の問題があります。わんちゃん、ねこちゃんを保定する時には覆いかぶさるようにして抱えるのですが、処置が終わって「偉かったねー」と頑張った子を撫でながら離れた看護師さんの胸には、びっしりと白い毛が……病院内にコロコロローラーは必須です。

黒いスクラブだとどうしても毛が目立つのですが、白いスクラブならほとんど見えません。取り残してもわかりませんから、見た目の清潔感を保つことはできます。とはいえ毛も感染源になるので、目立たないからといってコロコロを怠ってはいけませんけどね。

黒いスクラブの問題点

白いスクラブのいいところで毛の問題を書きました。それ以外に黒いスクラブの長所をあえて掘り下げると、汚れの目立たないところが仇になることもあります。バタバタした診察を終わらせてひと段落、コーヒーを飲もうと医局の椅子に座ってふと袖を見るとうんちがついていた、なんてことも……清潔感も大事ですが、実際に清潔であることも大事ですね。

汚れを気がつかずに運んでしまった時は惨事です。

白いスクラブの問題点

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獣医業界には「白衣高血圧」と呼ばれる症状があります。これは動物の不安からくる人為的な高血圧で、本当の高血圧と誤診してしまう原因になります。とはいえ、わんちゃんねこちゃんは動物病院についた時点でドキドキしてしまうので、白衣だけのせいではないかもしれません。


ただし手術用スクラブは白くしない!

手術の時には手術室専用のスクラブを着ます。執刀に関わる人はその上にガウンを羽織りますね。でも白衣は白いのに、手術室で着るものは青や緑です。一体なぜでしょうか?これには人間の目の仕組みが関係しています。手術ではじっと赤い血ばかり見るので、ふとした表紙に白色を見てしまうと、さっきまで見ていた赤色の補色として緑色が見えてしまうのです。

これは補色残像と呼ばれる現象です。そのまま術野に視線を戻すと、緑色が術野を邪魔してしまいます。この現象を防ぐために、手術用の服装は緑や青のものばかりにして、補色残像を起こさないようにしているのです。

結局どんな色のスクラブがいいの?

手術着に関しては緑か青が無難ですが、診察の現場では病院のイメージカラーや医療従事者それぞれの好みじゃないかなと思います。でも最近は医療従事者の基本装備だった白い白衣はあまり着られることがなくなりました。

スクラブの方が動きやすいという理由が大きいと思いますが、最近の病院は人間医療も含めて「安心感」や「訪ねやすさ」を重視している傾向にあります。白いスクラブもよく見ると、差し色が入っていて、完全な白を取り入れているものはほとんど見かけません。

これは白色が清潔感を保てる一方で、高圧的な印象を与えてしまうからだそうです。今はドクターも「お医者様」と呼ばれる時代ではないので、患者さんに圧迫感を与えない色が好まれている風潮があります。

カラーバリエーションが増えたからこそ、黒色は万能?

これはファッションの話になるので黒いスクラブの長所とは別枠にしたのですが、黒は色として万能です。どんな色とも相性がいいので、上下でスクラブの色を変える人もいます。上は好きな色のスクラブを着て、下は黒。

王道とも言えるこのスタイルは引き締め効果があるので、見た目がすらっとしていて、スッキリした印象になります。狙いたい色彩心理と黒のクールさどちらも取り入れられるので、下だけ黒を持っているという先生も何人かいました。

それに、色彩心理でも黒は強さや権威を示すとされています。白は「お医者様」という固定概念がありますが、黒は色彩心理の上での威圧感なので、うまく組み合わせれば威厳も引き出せるようです。

黒いスクラブも認められる時代になってきた!

元々は衛生管理のためにと白ばかりを用いてきた医療現場ですが、個性的なイメージカラーが採用されるようになったのは、布の品質がよくなって洗濯がしやすくなったからではないでしょうか。白いスクラブには白いスクラブの良いところがありますし、黒いスクラブにも黒いスクラブなりの強みがあります。

医療スクラブは白がいいのか?黒がいいのか?黒も医療に大きく貢献しているのです。